活動履歴

身寄りなし問題
2026年5月15日 JIAM研修報告書
「孤立を生まない地域づくり
〜身寄りのない高齢者支援と包括的体制〜」
講師:身寄りなし問題研究会 代表 須貝秀昭 氏

講演概要
先日滋賀県の研修にて、「身寄りのない高齢者」を取り巻く現状と課題について、医療・介護・地域包括支援の現場経験を踏まえた具体的な事例を交えながら講演が行われた。
須貝氏は元看護師であり、介護支援専門員(ケアマネジャー)、地域包括支援センター職員として長年現場に携わった経験を持つ。現在は「身寄りなし問題研究会」を立ち上げ、全国で講演や研究活動を行っている。
講演の中で特に印象的だったのは
「問題を抱えた個人への支援だけでなく、問題を生み出している社会構造そのものへアプローチする必要がある」
という「ソーシャルアクション」の考え方であった。
日本社会の変化と“家族前提社会”の限界
須貝氏は、日本の制度設計が依然として「家族が支えること」を前提としていることを指摘した。
現在
- 3組に1組が離婚
- 単身世帯増加
- 未婚率上昇
- 遠距離家族
- ヤングケアラー問題
- 8050問題
- シングルマザー世帯増加
など、家族形態が大きく変化している。
しかし、入院、手術、施設入所、賃貸契約、医療同意、死後対応など、人生の重要場面では今なお「家族による支援」が当然視されている。
講演では「生老病死のすべての場面において、家族による支援が当然とされている」
という言葉が紹介され、制度と現実の乖離が深刻化していることが示された。
地域包括ケアシステムと在宅化
現在、国は「地域包括ケアシステム」を推進している。
講演では、
「ときどき入院、ほぼ自宅」
という国の方向性について説明があった。
つまり、
- 医療
- 介護
- 住まい
- 生活支援
を地域で包括的に支えながら、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることを目指している。
その中で、在宅ひとり死は可能という話が印象的であった。
須貝氏は、「3点セット」として
- 24時間対応の訪問看護
- 24時間対応の訪問診療
- 訪問介護
が整えば、一人暮らしでも在宅で最期を迎えることは可能であると述べた。
これは介護保険制度の成果である一方、制度改正のたびに使い勝手が悪化しているという課題も指摘された。
シャドーワーク問題
今回の講演で特に深刻だと感じたのが「シャドーワーク」の問題である。
ケアマネジャーや地域包括支援センター職員が
- 安否確認
- 緊急時対応
- 救急搬送付き添い
- 金銭管理
- 通帳保管
- 入院保証
- 死後対応
- 親族探し
など、本来業務外の支援を担っている現状が紹介された。
「制度の隙間を現場の善意で埋めている」状態であり、支援者側の疲弊が深刻化していると説明した。
介護人材不足や離職問題にも直結する重要な課題であると感じた。
施設入所と“永遠の3番”
講演では、特別養護老人ホームへの入所を巡る事例も紹介された。
要介護4の高齢女性が、特養申し込み時に「(入所順位は)3番目です」と説明されたものの、3年経っても3番目のままであったという。
背景には「高齢の夫は身元保証人とみなされない」という実態があった。
つまり、制度上は公平な入所判定に見えても
- 緊急対応
- 身元保証
- 死後対応
ができない人は、実質的に不利になる構造が存在している。
これは、「身寄りのない人の見えない排除」とも言える問題であり、大変重要な視点だと感じた。
身元保証会社と新たな課題
講演では、民間の身元保証会社についても説明があった。
ある事例では、
- 入会金
- 年会費
- 預託金
- 死後事務費
などを合わせ、初期費用111万円が必要との説明があった。
都市部ではこうしたサービス利用が一般化しつつある一方
- 適正事業者の見極め
- 監督官庁の不在
- 高額契約
- 財産管理
など、多くの課題も抱えている。
一方で、国も近年ガイドライン整備を進めており、徐々に適正化の動きが始まっているとの説明があった。
医療同意と「医療決定チーム」
講演では医療同意ではなく「医療決定」という視点が示された。
現在、厚生労働省は「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を示している。
そこでは、
- 病院倫理委員会
- 医療決定チーム
を設置し「本人ならどう考えるか」を、多職種で検討することが求められている。
さらに、支援対象となる「家族等」の範囲も、親族だけでなく、
- 親しい友人
- ケアマネジャー
- 支援者
へ広げて考える必要性が説明された。
人生会議(ACP)
今回の講演で非常に重要だと感じたのが、
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
いわゆる「人生会議」である。
- どんな医療を望むか
- 延命をどう考えるか
- 最期をどこで迎えたいか
- 誰に託すか
を、元気なうちから繰り返し話し合う取り組みである。
「死について当たり前に話せる空気づくり」の必要性について改めて考えるきっかけとなった。
その一環としてDeath Cafe(デスカフェ)の活動も紹介された。
これは、死をタブー視せず、気軽に語り合う場づくりであり、日本社会に必要な文化的取り組みだと感じた。
魚沼市ガイドラインの例
策定には
- 市
- 医師会
- 消防
- 社会福祉協議会
- 看護協会
- 保健所
- ケアマネ協会
- 弁護士
など、多機関連携が行われた。
内容:
- 市民アンケート
- 人生会議
- 支援者育成
- 事業評価
この流れで、地域合意形成を進めたことが特徴的であった。
単なる制度整備ではなく、「地域全体で支える文化づくり」を重視している点が印象的であった。
地域・共助・新しいつながり
講演では、
- おっさんレンタル
- 飲み仲間
- バー
- 地域の茶の間
- オンラインコミュニティ
など、多様なつながりも紹介された。
特に印象的だったのは、「今の若い世代には、従来型の“地域”という概念がない」という話である。
つまり、町内会自治会だけでなく、
- SNS
- 趣味仲間
- 飲み仲間
- オンラインコミュニティ
なども、新しい共助の形になり得るという視点である。
須貝氏はこれを、「家族機能の社会化」として語っていた。
所感
今回の講演を通じて強く感じたのは、「孤立は個人の問題ではなく、社会構造の問題」
であるということだった。
また、「身寄りなし問題」は高齢者だけの問題ではなく、
- シングルマザー
- 障がい
- 貧困
- 若者孤立
- 精神疾患
- 住まい
- 医療
- 地域コミュニティ
など、あらゆる社会課題や制度の狭間の課題とつながっていると感じた。
特に印象に残ったのは、「制度の隙間を、現場の善意が支えている」
という現実である。
今後は、属人化するのではなく「地域として支える仕組み」
への転換をしていかないと、個人が疲弊してしまうのでは、、と感じた。
また、人生会議(ACP)、デスカフェなど、死生観に対しての前向きな捉え方が、残された人が大変にならない視点だと思った。
死を特別視しない地域文化を育てていくことの重要性を強く感じた。
筑紫野市においても、
- 単身高齢者増加
- 在宅介護推進
- 地域包括ケア
- 孤独孤立対策
など様々な問題が今後さらに重要になると考えられる。
そのため
- 身寄りなし支援ガイドライン
- ACP普及
- 地域共助
- 排除を起こさない受け入れ体制
- 行政の横のつながり
などの重要性について提言するとともに、さらに学びと検討を深めていきたい。
筑紫野市議会議員
春口あかね